「かま猫はもうかなしくて、かなしくて頬(ほほ)のあたりが酸つぱくなり、そこらがきいんと鳴つたりするのをじつとこらへてうつむいて居(を)りました。」


宮沢賢治の「猫の事務所」の一節。真面目に仕事をしているのに皆に疎んじられているかま猫。風邪でたった一日仕事を休んでしまったかま猫が、翌日仕事に来てみれば自分の仕事は同僚に横取りされている。朝の挨拶をしても誰も返事もしない。事務所に呆然と立ち尽くしている自分を皆があからさまに無視する。

読んでいるほうも「かなしくて、かなしくて頬(ほほ)のあたりが酸つぱくなり、そこらがきいんと鳴つたり」します。
宮沢賢治の文章にはこういう、身につまされるというか、身体に感覚として感じられる表現が時々あるように思います。


「猫の事務所」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/464_19941.html