駅南口の小さな郵便局でATMの順番待ちをしていると、貯金窓口職員とおばあさんとのやりとりが聞こえた。おばあさんはかなり耳が遠く、職員が大きな声で話してもなかなか分からないようだ。
このおばあさんはご主人名義の預金を下ろそうとしていて、それには「イニンジョウ」が必要であると言われているのだが、「イニンジョウ(って何)?」と要領を得ない様子。若いその職員は大声ではあるが立て板に水といった調子で「○○さん(おばあさん)はいつもここじゃなくてM山郵便局を利用してますよね」(おばあさんが「はい」と返事をするまで何度か繰り返し。以下同様)「M山郵便局なら多分メンシキのカンケイでイニンジョウはいらないと思いますよ」。
何だかよく分からない。おばあさんは(私からは背中しか見えないのでその表情はわからないが、恐らく)困ったように申し訳なさそうに「…へへへ…」と力なく笑っている。それでもその職員は「メンシキのカンケイで云々」と繰り返すばかりだ。
私でも「メンシキ」が「面識」だと分かるのに少し時間がかかったのに、こんな難しい言葉で話したところで耳の遠いおばあさんにすぐ分かるはずもない。
「本当はイニンジョウといって、『○○さんに代わりにお願いします』という書類が要るんです。でも○○さんがいつも行っているM山郵便局なら皆が○○さんのことをよく知っていますよね。だからM山郵便局なら、そのイニンジョウという書類はいらないと思いますよ」とでも話せば少しは分かりやすいだろうに。
私がATMでお金を下ろしてそこを出ようとした時にはもうそのおばあさんは窓口にいなかった。納得して帰られたのかどうか知らない。