石津謙介氏の名前を今日久しぶりに目にして、7,8年前だったかに新聞で読んだ氏のコラムのことをまた思い出した。「また」と言うのは、私はこのコラムの内容を思い返しては腹立たしくなる、ということをこの何年かの間に幾度となく繰り返しているからだ。


世の男性諸氏の服装を見ると実に嘆かわしい。ゴルフ用のスラックスに、ピカピカ光る安っぽいバックルのついたブランド品のベルトなどをしている -- といった内容で始まるコラムだった。何しろもう何年も前に読んだものなので全ての文章を正確には覚えていないが、前述の文章に続けて氏が言っていたのはおよそこういったことだった:


「このような(前述のような)服装をして平気で外を歩ける、服装に気を遣うことのできない人間というのはダメである。そしてたいていそのような人間は仕事も出来ないし、何をやっても上手くいかないものなのである」


つまり石津氏は、僕のお眼鏡にかなう服装の出来ないような男は仕事も出来なきゃ何もできないダメ人間、そして僕はそのことをその男の服装を見るだけで即座に判断できるのだ、と言っていたわけだ。


何様だ?


日本の中高年の男性の大多数は、それこそなりふり構わず、身なりにも構わずに何年も何十年も働き続けてきた人達だろう。お洒落に興味があったかもしれない人達も、実際には精神的にも金銭的にもそんな余裕のないまま人生の黄昏どきを迎えてしまったのかもしれない。そしてそういう人達が休日に、ゴルフズボンにちょっと悪趣味なベルトをして出歩いているのを見ては「何をやってもダメ人間」と見下して嘲笑していたわけだ、石津氏は。


そのコラムによれば、良質なものだけを身につけ、着こなしには細部に至るまで気を配り、一分のスキも見せないということが石津氏の美学であったらしい。それはそれで結構である。好きなだけその道を追求すればよかろう。ただそんなことは一人で、もしくは気の合う仲間うちだけでやっていればよろしい。
いくら小奇麗でお洒落でカッコいいおじさんであろうと、お洒落でない他人を小馬鹿にするような人は「お断りだ」である。